を持ちこんでおれを嵌めようたって、そうは問屋じゃおろさない。お前とおれとでは学がちがうでな……。おい、ひょろ松、これは『剪燈新話《せんとうしんわ》』にある『金鳳釵《きんぽうさ》』という話だが、いったいどこから仕入れて来た」
 ひょろ松は、むッとした顔で、
「仕入れたも仕入れないもない。正真正銘の話。このあいだ、深川の八間堀《はっけんぼり》へ首のない死骸があがり、月番ではありませんが、そのひっかかりで万屋へ行ったとき、万和の口から直接にきいた話なンです」
 アコ長は、いつになく真顔になって、
「すると、それはほんとうの話か」
「あなたをかついだって三文の得にもなりゃアしない。ほんとうもほんとう、金三郎とお米は明日の晩祝言をするンで、万和じゃ、てんやわんやの騒ぎをしているンです」
 アコ長は、チラととど助と眼を見あわせ、
「とど助さん、こりゃアどうもいけませんな」
 とど助は、眼でうなずいて、
「いやア、なにやら、チト物騒な趣きです」
 ひょろ松は、キョトキョトと二人の顔を見くらべながら、
「なにが、どう物騒なンです。……ふたりで眼くばせなんかして、気味が悪いじゃありませんか」
 と、言っ
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