う工合になるんだろう。……金三郎が鳳凰を彫った簪を万和に見せると、万和はおどろいて、これはお梅の棺の中へ入れてやった簪だが、どうしてあなたがこんなものを持っていらっしゃるのかと訊ねる。そのとたん、寝ていたお米がムクムクと起きだし、あたしがあまり哀れな死にようをしたので、冥土の神さまが憐れんでしばしの暇をたまわり、お米の身体を借りて金三郎さまと契りました。……顔を見るとお米だが、言葉つきはまるっきりお梅。みなが驚いているうちに、お梅の霊は、あたしの縁をお米につがせてくださることがなによりのあたしの供養。どうぞおききとどけくださいませ。ではこれでこの世のお暇《いとま》、と言って泣き倒れたと思うと息が絶えた。おどろいて駈け寄って介抱すると、間もなくお米は息を吹きかえしたが、瘧《おこり》が落ちたようにキョトンとしている。寝ていたあいだのことを訊くとなにひとつ知らないという。万和もお梅のこころを哀れに思い、お梅が言った通り、ふたりを夫婦にすることにした、仍《よ》って件《くだん》の如しさ」
「なアんだ知っていらしったのですか。相変らずひとが悪い。ひとにさんざん喋らせておいて……」
「こんな古風な話
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