を着た番頭や印物《しるしもの》を着た鳶頭《かしら》が忙しそうに出たり入ったりしている。
日が日だから温厚な万屋和助もさすがに迷惑そうな顔をしたが、こちらはそれに構わず、残らず家の中を見せてもらって、最後にお米が寝ていたという例の座敷土蔵。
大奥の局もこうあろうかと思われるような手びろい構え。長い廊下に四方からかこまれた五百坪ぐらいの中庭があって、土蔵はそのまんなかに建っている。
アコ長は、ひょろ松を助けるふりをしながら土蔵の穴蔵へ入ってなにかしきりにゴソゴソやっていたが、やがてひょろ松の耳に口をあて、
「ここに抜穴でもあるかと思って調べて見たが、そんなものはない。このへんがギリギリだろうから、さっき言ったことを万屋に訊いてみろ」
ひょろ松は合点して、万和のほうへ寄って行き、
「ねえ、万屋さん、つかぬことをお伺いするようですが、お米さんが息を引きとられたとなると取りあえず湯灌の支度をしなくちゃならない。そのとき棺はこの土蔵座敷の中まで入りましたろうね」
万和はうなずいて、
「息を引きとりましたのが七ツ半ごろ。泣きの涙で死衣裳に替えさせ、お時という小間使をひとり残してわれわれは広
前へ
次へ
全30ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング