死骸が出てくる気づかいはねえ。長雨さえなかったらなにかの手がかりが残っていたろうというもンだが、グズグズ雨の後じゃどうしようもねえ。……首を斬られて八間堀へ浮いたのはほんとうのお米だったということはこれでわかったが、むこうがこういう出ようをするなら、こちらもひとつ腰をすえなくちゃなるまい。……きょう祝言をするのはお米と瓜ふたつの偽物。言うまでもねえ、金三郎というのも、おなじ穴の貉。それに、仲間が二三人。……ひょっとすると、万屋の家の中にも一人いる」
「へえ」
「とにかく、ほんもののお米は現実に万屋からかつぎ出されているンだから、どんな方法でやりやがったか、そいつを手ぐってみたらなにかの引っかかりがつくかも知れん。これから深川へ引きかえして万和へ乗りこんで見よう。……表むきは、おれはお前のワキ役。そのつもりでいてくれなくっちゃ仕事がやりにくくなる」
「かしこまりました」
 道々、細かい打ちあわせをしながら深川の茂森町。ひょろ松は、万和とは昵懇《じっこん》だから店からすぐ奥へ通される。
 今日が婚礼なので、門に高張《たかはり》を立て、店には緋の毛氈を敷いて金屏風をめぐらし、上下《かみしも》
前へ 次へ
全30ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング