替えるのということがないとおっしゃるのでしたら、これはあたくしの気の迷いだと思って、二度とこのようなことはかんがえないつもりです」
ひょろ松は、先刻から眼をとじてジックリと利江の話を聴いていたが、だしぬけにギョロリと眼を剥くと、
「阿古十郎さん、それは、たしかに替玉ですぜ」
顎十郎はおどろいて、
「居眠りしてると思ったら起きていたのか。だしぬけに大きな声を出すもんだから、お嬢さんがびっくりしていなさるじゃないか。……まア、それはいいが、どうしてお前にそれが替玉だということがわかる」
「だって、そうじゃありませんか。現在の妹が姉とちがうとおっしゃるからには、替玉にちがいなかろうじゃありませんか。理屈はどうあろうと、感でこうと睨ンだことは決して狂いのあるものじゃありません」
「ふふふ、とど助さんお聴きになりましたか、ひょろ松がえらいことを言い出しました。……では、先生におうかがいしますが、そういう奥まったところにある座敷土蔵へどうして偽物が忍びこみ、どうして大病の真者《ほんもの》を持って行ったか、ひとつご釈義《しゃくぎ》ねがいましょうか」
「なアに、わけはないこってす」
と言って、利
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