《ざしきどぞう》で、廊下にかこまれた中庭にありますので、前栽からも遠く、もちろん玄関や裏口などからもよっぽど離れておりますんです。それに、姉の枕もとには父と母とあたしが番がわりに、いっときもそばを離れぬようにして附添っておりましたのですから、たとえどのようなことをしてもあの大病の姉を土蔵から運びだし邸の外へつれてゆくなどということは思いもよらず、まして、替玉になるひとが数々の座敷を通って誰にも見咎められずに土蔵の中へ入ってくるなどということは決して出来ることではありません」
「いよいよもってこれは不可解。すると、これはどういうことになるンです」
利江は、悧発そうな眼でアコ長の顔を見つめながら、
「きょうお願いにあがりましたのは、そのことなンです。どんなことがあっても入れ変わるの、すりかえるのということが出来るはずのないのに、いま姉といっているのは確かにほんとうの姉ではなくて別なひと。これは、いったい、どういうわけなのか、そのへんのところをキッパリと見きわめていただきたいと思いまして、それでこうしておうかがいしたのでした。あなたがお調べくださって、どんなことがあっても、すりかえるの入れ
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