屋さんが来ておかみさんと三階の出窓の部屋で話をしていたようです、と耳打ちをしたンで、さすがのあっしもおさまらなくなり、相手はもう仏になった人ですが、念を押して出て行ったすぐその後で、そんな舐めた真似をするおもんの白ばっくれように腹が立って、すぐおもんのところへ行って……」
「ずいぶんひどく殴ったりたたいたりしたそうだな。それで、殺す気になったのか」
藤五郎は顔色を変えて、
「あっしが、おもんを……」
ひょろ松は、十吉のほうへチラと眼くばせをしてから、
「藤五郎さん、もう証拠はあがった。……吉兵衛の家へ火をつけ、おもんに吉兵衛を殺させておいて、そのおもんをまた盛殺《もりころ》したのは、藤五郎さん、お前さんだろう」
藤五郎は、唇を震わせて、
「どういう証拠で、そんなことをおっしゃるンです」
「ひと口には言えないから、順々に言ってやる。……なア、藤五郎さん、さっき、内所で起されるまでグッスリと寝こんでいてなにも知らなかったと言ったが、七ツ半近くお前さんが土蔵の扉前《とまえ》でウロウロしているのを雪隠《せっちん》の窓から見かけたものがあるというんだが、それはどうしたわけなんだ」
それを
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