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「ところで、こんなものがそこの屏風箱のかげに落ちていた。この通り印籠の中に残っている薬の包み紙と同じなんだが、こりゃいったいどうしたわけのもンだろう」
悪相というのではないが、ひと癖ありそうな面がまえ。ズングリと肥って腹が突き出し、奥山の高物《たかもの》小屋で呼込みでもしたら似あいそうな風体。
藤五郎は、きかぬ気らしく太い眉をピクリと動かして、
「それがどうしたとおっしゃるんです」
「どうしたもこうしたもねえ。俺が訊いてるんじゃねえか。それに返事をすりゃアいいんだ。この包み紙はこの印籠から出たものだろうと、そう訊ねているんだ」
「それはあっしが申しあげるより、あなたがごらんになったほうが早いでしょう」
「返事をしたくなかったらしなくてもいい。じゃア、別なことを訊ねるが、こんなところに印籠が落ちているのはどういうわけなんだ」
「存じませんです」
「印籠に足が生えて、ひとりでここまで歩いて来たか」
「ご冗談。……それはおもんが持ちだしたので、それでこんなところにあるんだろうと思います。もう充分お調べがあがってることでしょうから、多分ご存じのことと思いますが、おもんはきつい癪持ちで、
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