らだとやれそうだな」
十吉は、頭をそらして目測《めづも》りをしていたが、
「なるほど、やってやれないこともありますまいが、すこし間尺《まじゃく》がちがいますね。なんといったって死んだ人間の身体はひどく重量《おもみ》のあるものだから、どうはずみをつけて放りだしたって、こんなところまで飛ばせるわけがねえ。もっと塀ぎわへ落ちるでしょう」
ひょろ松は、ニヤリと笑って、
「三階の櫓下に非常梯子が吊ってあるだろう。あれが、手品のからくりだ」
十吉は、膝をうって、
「考えやがった。……すると、つまり、梯子のはしへ死骸をのせて……」
「こっちへヒョイと突きだせば、否でも応でも死骸がひとりでにこのへんまで辷り出してくる。だいたいそのへんのところだろう」
十吉はうなずいていたが、急に怪訝《けげん》そうな顔つきになって、
「たしかにそれにはちがいない。それはよくわかりましたが、それにしても、なんのためにそんな手間のかかることをやったンでしょう。わざわざあんな高いところまで死骸を引きあげて火の中へ放りこむような廻りくどいことをしなくとも、殺しておいて火をつけりゃそれですむことじゃありませんか」
「それ
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