、十吉とふたりで焼跡へ入って行く。
京屋の塀が五間ばかり焼けのこっただけで、よくまあこう見事に焼けたものだと思われるほど。
家が古いのに、よく乾き切っていたと見え、梁も桁もかたちがなくまっ黒に焼けきった焼棒杭《やけぼっくい》と灰の上に屋根伏せなりに瓦がドカリと落ちつんで、すこし谷のように窪んだところにまっ黒に焦げた吉兵衛の死骸が俯伏《うつぶ》せになっている。
ひょろ松は、一間ほど離れたところに突っ立ってジロジロと眺めていたが、十吉のほうへ振りかえると、だしぬけに、
「おい、十吉、この死骸はどうしたんだ」
「どうした、とおっしゃると」
「誰か手をつけたのか、掘出したのか」
十吉は、首をふって、
「そんなことはしませんです、昨晩からこうなっているンで」
「それは、確かなことなンだろうな」
「確かも確かも。番所で油を売っていまして、ジャンと鳴ると火消改と一緒にまっさきに飛んで来たのはこのあっしなんで。……それから焼落ちて水手《みずて》が引きあげるまで、ずっとここを離れなかったンです」
「すると、お前が見たときから、このありよう[#「ありよう」に傍点]は変っていないわけだな」
「へえ、
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