ど変った奴にちがいないンです」
裸の膝っ小僧へにぎりっ拳をおいて、
「ときに、お見こみはいかがです。やはり……」
ひょろ松は、むずかしい顔をして、
「そんなことがわかるもんか。吉兵衛の口だけできめてかかれるもンじゃねえ。強がって与太《よた》っぱちを言ったのかも知れねえからの」
「でも、入墨の痕が……」
「それだって、その棒手振がなにをどう感違いしたのかわかったもんじゃねえ。あわてると仕損じる。まアまア手がたくゆくこッた」
と言いながら、帷子《かたびら》の襟をしめ、
「じゃ、ひとつとっくり焼跡を見ることにしようか。念を押すまでもねえが、昨夜のままになっているンだろうな」
「そのご念にはおよびません。非常止めにして、火消人足さえ入れないことにしてあります」
「京屋の間取りはわかっているか」
「ここへ図取りがしてございます」
「おお、そうか、よしよし。じゃ、出かけるとしよう」
浅草橋からは、わずかな道のり。
手扇で陽ざしをよけながら、二丁目の角まで来ると、その角から河岸っぷちまで止め繩を張りめぐらして番衆が六尺棒を持って立番をしている。
ひょろ松は、番衆にちょっと声をかけておいて
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