と、といって足もとをひょろつかせながら出て行ったが、それっきりいつまでたっても戻って来ない。
酒も切れ、肴も荒してしまった。そのうちに出て来るだろうぐらいに考えて、なすこともなくぼんやりしていたが、いっこうに帰って来るようすもない。どうにも手持無沙汰でやり切れなくなり、うるさく手をたたきながら、
「おいおい、小波さん、引っこんでしまった切りじゃしょうがねえ。化粧なおしなんざ後でもいいから、ともかく、酒を持って来てくれ。……酒がねえぞウ。おーい、酒、酒!」
大りきみに力んで、テッパイに怒鳴り散らしているところへ、渡り廊下のほうに、二三人の足音がドサドサと近づいて来た。
瓦灯口の襖をサラリと引きあけて、ヌッと顔を現したのは、思いきや、これが顎十郎の仇役。互いに一位を争う、これも捕物の名人、南町奉行所の控与力藤波友衛。後へつづく二三人は、巻羽織《まきばおり》やら磨十手《みがきじゅって》。髪をおどろに振りみだした三太夫ていの男をひとり中にはさんで、ズカズカと茶室の中へ入りこんで来た。
顎十郎は酔眼|朦朧《もうろう》。春霞のかかったような、とろんとした眼つきで藤波の顔を見あげながら、素頓
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