、御意《ぎょい》にしたがいましょう。……これ、小波」
「お召しでございますか」
「こりゃアまるで掛合いだ。だいぶ愉快になって来た。じゃ、早速ですが、まず第一に……」
小波は、やさしい仕草《しぐさ》で、ちょっと押しとどめるような手真似をしながら、
「でも、それでは困ります」
「へえ、まだ、なにかいけませんか」
「お殿様のお申しつけでは、存分《ぞんぶん》にお寛《くつろ》がせ申せということでございました、もっとお寛ぎくださいませ。そんなふうに四角にお坐りになっていられたのでは、お寛がせ申したことにはなりません。膝をおくずしなさいませ。豪勢にあぐらでもかいていただきます」
「いや、どうも御念の入ったことで。どっちみち、いずれはくずれる膝ですが、しからば御意にしたがいましょう」
顎十郎は、燃え立つような繻珍の大褥の上に大あぐらをかいて、
「どっこいしょ、こんな工合じゃいかがです」
「結構でございますわ。ついでに、どうぞ、脇息へ肘をおもたせくださいまし」
「はは、こんな工合でよろしいか」
「お立派に見えますわ」
「ひやかしちゃいけねえ」
小波は、嬉しそうに手をうって、
「その調子。……今のよ
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