の下見《したみ》の節穴へ、写し絵の種板のようなものをおしあててニヤリと凄い顔で笑う。
 と、場面が変って、座敷の中。十八九の娘が、枕屏風を引きまわして寝ているその欄間の上を、先刻の清姫の蛇体が、すさまじいようすでニョロニョロと這いまわりはじめた。
 見物の村の衆は、あっけにとられて口をあいて眺めるうちに、暗闇の庭さきで、あッ、という叫び声がきこえ、つづいてバタバタと門のほうへ走り出したものがある。
 むさんに駈けて行って、潜りから外へ飛びだそうとしたが、かねて手はずがしてあったものと見え、門の両側の闇につくばっていた五六人の男がムクムクといっせいに立ち上って、折り重っておさえつけてしまった。
 引きおこしてみると、それが、日ごろまめまめしく立働いていた下男頭の作平。

 五日市街道のもどり道。
「……それにしても、手洗鉢にうつるお天道《てんと》さまのあかりを種につかい、節穴に嵌めこんだ種板で欄間に大蛇をうつして見せようなんてえのは、そうとう悪達者なやつ。……手洗鉢の水にうつった陽の光が、折れ曲って節穴を通り、座敷の欄間に照りかえしているのを見て、それから思いついたことなのでしょうが、手
前へ 次へ
全25ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング