うに、浮世絵の極彩色の美しい姿で松並木のなかほどのところまでやってくると、上手《かみて》から飛脚が飛んで出る。
 清姫が、こうこういう美しい旅の僧を見なかったかと訪ねる。飛脚は、あっちへ行ったという。
 お次ぎは、旅の僧侶がひとり。夜道で思いがけない美しい女にあったので、幽霊かと思い、あわてて突っ伏して、鐘をたたきながら無闇に念仏を唱える。
 画面がかわると、『日高川の場』。
 背景は、満々と張った川の流れ。
 清姫がよろよろと岸に辿りついて、渡守に、渡してくれと頼むが、船頭は無情にことわる。
 清姫は泣いたり恨んだりしていたが、だんだん凄いかおになって、とうとう川に飛びこんで抜手を切るうちに、一度、水底に姿が見えなくなったと思うと、とつぜん、金の鱗をつけた凄じい蛇体になって、激流の中を泳いでゆく。
 ここまではいいが、そのあとは、ちょっと意外なことになった。
 普通ならば、これから道成寺へ行って、塀を乗りこえて鐘楼に近づく、ということになるのだが、どうしたのか、今晩の『写し絵』は蛇体が日高川を泳ぎわたると、とたんに、どこか、離家の横手のようなところが映り、ひとりの作男ていの男が、そこ
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