高々《こえたかだか》。
「……東西々々、御当所は繁華にまさる御名地と承《うけたま》わり、名ある諸芸人、入れかわり立ちかわり、芸に芸当を取りつくしたるそのあとに、みじく[#「みじく」に傍点]なる我々どもがまかりいで、相勤《あいつと》めまする極彩色写絵《ごいさいしきうつしえ》は、ほかの芸当とはことちがい、手もとをはなれ、灯りさきはギヤマン細工。……とど仕損じがちもござりましょうが、ごひいきをもちまして、悪いところは袖たもとにおつつみあって、なにとぞ、お引立てを願いあげ奉《たてまつ》ります。今晩の芸題は、『安珍清姫道成寺の段』、相勤めまするは小浜太夫。おはやし、楽屋一同、そのため、口上、左様々々……」
 いよオ、御苦労様。
 わッという掛け声のうちに、賑かな下座《げざ》が入る。三味線、太鼓、小鼓、それに木魚がつれて、禅《ぜん》のつとめの[#「つとめの」に傍点]合方《あいかた》。
 映し幕に、パッと明りがさし、色も鮮かに浮きあがった画面は、上下に松並木の書割、前が街道。と、下手から清姫がなよなよと現れ出てくる。
※[#歌記号、1−3−28]赤い振柚に花簪、帯のだらりも金襴に……と、歌の文句のよ
前へ 次へ
全25ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング