ろで、これだ、と思いついた。なるほど、そう言や、尺八の符本にある符牒だ。……ただ、のべったらになっていたのでわからなかったのだ。大黒絵をその師匠に見てもらうと、これは尺八の符じゃありません。一節切の符だという。……それから、日本橋の本屋へ行って、一思庵《いっしあん》の『一節切温古大全《ひとよぎりおんこたいぜん》』というのを買い、指孔《ゆびあな》のように上から五つずつ区切って読んでみると、ちゃんと文句になる。

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○○●●● ヒ、●●○●○ ル、●○○○○ ヤ、○○○○○ ツ、●○○○○ ヤ、●○○●○ タ、●●●●○ ホ、○●○○○ リ
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「昼、未《やつ》、弥太堀……」
 といって、てれくさそうに、頭に手をやり、
「ところで、藤波友衛のほうが、おれより五日ばかり早かった。……ただ、藤波のやつは絵すがたの絵ときが出来ずに、いきなり弥太堀の大黒堂だと思いこんでしまった。藤波だって、矢羽根も四匹の鼠もちゃんと見ていたことだろうが、あのまぬけな絵ときが出来なかったのは、あいつの頭があまり鋭すぎたからだ。……たとえば、南部《なんぶ》の絵暦《えごよみ
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