》を、学者よりも百姓のほうが、じょうずに読む。……しょせん、頭が正直で、まよわずにあるがままにものを見るからだろうて。ともかく、早く大黒屋をひっつつんでしまえ」
ひょろ松は、そっと水茶屋の裏口からぬけだすと、長い脛でぼんのくぼを蹴あげるようにしながら、むさんに八丁堀のほうへ駈けて行った。
弥太堀の大黒屋に集っていたのは、一団の主領かぶで、栗田口新之丞《あわたぐちしんのじょう》、石丸茂平《いしまるもへい》、佐田長久郎《さたちょうくろう》、杉村友太郎《すぎむらともたろう》、山谷勘兵衛《やまやかんべえ》、以下十名、いずれも勤王くずれの無頼漢《ならずもの》。
勤王を名にして、木曽路や東海道で強盗をはたらいていた連中。咸臨丸の金、二十五万両が東海道をくだることを聞きこみ、江戸の悪者どもをかりあつめて海道に配置し、自分らはここで勢揃いをし、用金の後を追って、まさに発足《ほっそく》しようとしている危《きわ》どいところだった。
底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」三一書房
1970(昭和45)年3月31日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田
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