顎十郎捕物帳
咸臨丸受取
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)川風《かわかぜ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)砲十二|門《もん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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   川風《かわかぜ》

「阿古十郎さん、まア、もうひとつ召しあがれ」
「ごうせいに、とりもつの」
「へへへ」
「陽気のせいじゃあるまいな」
「あいかわらず、悪い口だ。……いくらあっしが下戸《げこ》でも、船遊びぐらいはいたします。……これがあたしの持病でね。……まア、いっぱい召しあがれ」
 川面《かわも》から映《て》りかえす陽のひかりが屋根舟の障子にチラチラとうごく。
 むこうは水神《すいじん》の森。波止めの杭に柳がなびき、ちょうど上汐《あげしお》で、川風にうっすら潮の香《か》がまじる。
 顎十郎のとりもちをしているのは、神田の御用聞のひょろ松。その名のとおり、麹室《こうじむろ》のもやし豆のように
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