どこもかしこもひょろりと間のびがしていて、浅黒い蔭干面《かげぼしづら》が、鷺のようにいやにひょろ長い首のうえにのっかっている。長いことにかけては、顎十郎の顎と好一対《こういっつい》。
 酒と名のつくものなら、金鯛《さけくらい》にも酔う男。それが、屋根舟で、むやみと斡旋《とりもち》をしようというのだから、これには、なにかいわくがありそう。
 矢つぎばやの追っかけ突っかけで、顎十郎、さすがにだいぶ御酩酊のようす。
 ぐにゃりと首を泳がせて、
「ときに、ひょろ松、お前、今年、いくつになる」
「へえ、三十……に、近いんで」
「お前の三十にちかいも久しいもんだ。……本当の年は、いくつだ」
「三十四でございます」
「それなら、四十に近い」
「いえ、三十のほうに近い」
「ふふふ、小咄だの。……それはいいが、その年をさげて、こんな芸しかできないとは、お前もよっぽどばちあたりだ」
 へたにとぼけた顔で、
「それは、なんのことでございます」
「ひょろ松、相手を見てものを言え」
 顎十郎、長い顎のさきを撫でながらニヤニヤ笑って、
「おい、お見とおしだよ」
「………」
「お前、叔父貴に授《さず》けられて来たろ
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