ら一枚の刷物《すりもの》を出し、それをひょろ松に渡しながら、
「ひょろ松、お前、これをなんだと思う」
 ひょろ松は、受けとって眺めていたが、つまらなそうな顔で、
「こりゃア、このせつ流行《はやり》の縁起《えんぎ》まわしの大黒絵じゃありませんか。……これが、いってえ、どうだというんです」
「そうか、お前にはそうとしか見えないか」
 ひょろ松はあらためて眼をすえて眺めていたが、そのうちに頓狂な声をあげ、
「なるほど、こりゃア、ちと変っている。……この碁石のぶっちげえのようなものは、いったい、なんなのでしょう。……まさか、五目ならべの課題でもあるめえが」
 顎十郎はニヤリと笑って、
「それだけでもわかりゃア上の部だ。……それはそうと、妙なのはそれだけか。眼のくり玉をすえて、もう一度、よく見ろ」
 ひょろ松は、ためつすがめつ大黒絵を眺めていたが、
「あります、あります。……なるほど、妙なところがある。……大黒様の左肩に、矢羽根のようなものが微かに見えるが、矢をせおった大黒様とは珍らしい」
「ひょろ松、縁起まわしの刷物には、鼠がなん匹いたっけな」
「きまってるじゃありませんか、二匹です」
「この
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