っちゃ困ります。……それで、なにか見当がつきましたか」
顎十郎はケロリとして、
「引きうけたおぼえはないが、見当だけはつけてやった」
ひょろ松が、相好《そうごう》をくずしてあわて出すのを、顎十郎は手でおさえ、
「それで、南じゃ、このごろ、どんなことをやっている」
ひょろ松は、藤波とせんぶりの千太が、弥太堀に人数を張りこまして大わらわになっていることを話すと、顎十郎は、ふんと、鼻を鳴らして、
「こりゃア、ちと物騒なことになってきた。まごまごするとお蔵に火がつく。……南でやろうが、北でやろうが、おれにしちゃ、どうでもいいようなもんだが、なることなら、やはり叔父貴に手柄をさせてやりたい。どんなことになっているのか、ひとつ様子を見にゆこうか」
「へえ、お伴します」
急ぐのかと思えば、そうでもない。泰然たる面もちでひょろ松とならんで歩きながら、
「お前との約束があったが、じつは、すこし、からかってやるつもりで、あの足で金助町へ出かけて行ったんだ」
「えッ、じゃア、底を割ったんですか」
「と、思ったんだが、そうはしなかった。……そのかわりに、ふしぎなものを手に入れて来た」
といって、懐か
前へ
次へ
全23ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング