いまし。どうせあっしは女びいきですよ。……ふ、ふ、ふ、……これは、冗談だけど。それで、どうしてお局に隠してあることを見ぬきました」
「見ぬく……? 見ぬくも見ぬかぬもねえ。人間が消えてなくなるわけはないのだから、どうせどこかにいるにきまっている。木戸から出すよりは屋敷へひきこむほうが、なんと言ってもやさしかろう。門番のいない不浄門なんてえものもあるんだから。……木戸々々をたずね歩くまでもない、俺はすぐそうと察してしまった。……しょせん、あまりこしらえすぎるから、かえって尻がわれるのだ。乗物を持ちだして、こわしなんぞしなかったら、俺だって大いにまごついたかもしれない。……ところで、市村座のかえりに鍋島の中間部屋へよってみると、藤波が陸尺に化けこんで、駕籠部屋の前でウロウロしている。鍋島の乗物数のことは俺も知っているから、あいつがどういう間違いをしかけているかすぐわかった。鍋島さまを訴人して、それが見当ちがいだとなれば、奉行と藤波は腹を切らなくちゃならねえ。こちらの月番というわけでもなし、俺にしちゃアどうだっていいことなんだから、へたに泳ぎださねえようにシッカリと藤波をふン縛ってしまい、偽
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