顎十郎捕物帳
御代参の乗物
久生十蘭
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)神隠《かみかく》し
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)紀州侯徳川|茂承《もちつぐ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)お中※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ちゅうろう》
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神隠《かみかく》し
もう子刻《ここのつ》に近い。
寒々としたひろい書院の、金蒔絵《きんまきえ》の京行灯《ぼんぼり》をへだてて、南町奉行池田甲斐守と控同心の藤波友衛が、さしうつむいたまま、ひっそりと対坐している。
深沈《しんちん》たる夜気の中で、とぎれとぎれに蟋蟀《こおろぎ》が鳴いている。これで、もうかれこれ四半刻。どちらも咳《しわぶき》ひとつしない。
江戸一といわれる捕物の名人。南町奉行所の御威勢は、ひとえにこの男の働きによるとはいえ、布衣《ほい》の江戸町奉行が、貧相な同心づれとふたりっきりで対坐するなどは、実もって前代未聞、なにかよくよく重大な
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