っぱって行け」
「ようございます」
中間どもはおもしろがって、手どり足とり、藤波を部屋へひきずりこんで、大の字におさえつける。
顎十郎は、のんびりした声で、
「なにか気障なものを持っているかも知れねえ、すッ裸にひんむいてしまえ」
やれやれ、で、寄ってたかって裸にする。
ひとりが胴巻から先刻の手紙をひきずりだし、
「先生、こんなものが」
うけとって眺め、
「なんだ……池さまへ、藤より……。大師流《だいしりゅう》のいい手蹟《て》だ。こいつ文づかいもすると見える。とても陸尺なんぞの書ける字じゃねえ」
ドッと笑って、
「それはそうと、こいつの始末はどうします」
「かまわねえから、ぐるぐる巻にして隅っこへころがしておけ。朝になったら百叩きにして放してやろう」
蓑虫《みのむし》のようにグルグル巻にされたのを見すますと、
「よし、お前らは、しばらくあっちへ行っていろ。俺は、ちょっとこいつに意見をしてやる」
陸尺どもは、先生はあいかわらず酔狂《すいきょう》だと口々に囃しながら、部屋つづきへひきあげて行く。
顎十郎は、板の間にころがされて眼をとじている藤波のそばにしゃがみこみ、
「とき
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