っしゃいますねえ。……そ、それならば、十四挺」
「こりゃア、けぶだ。……あっしは部屋の窓からなにげなく数えたんだが、帰って来たときは、もっと多かったようだ」
 とほんとした顔で、
「よくわかりませんねえ。……い、いったい、いつのこってす」
「そうさ、ちょうど六ツ半ごろのこってさ」
 シャッキリとなって、
「そ、それならば、よく覚えております。……その節、手前、浄るりをうなっておった」
「あっしの数えたところでは、たしかに二十四挺だったように思うんですがねえ」
「さ、さよう。……いかにも、二十四挺。なぜかと言いますと、そのおり二十四孝をさらっておりましてね、それで、はっきり覚えております。ひッ」
「たしかに、二十四挺ですかい」
「たしかに、二十四挺。門帳をお見せしてもよろしい。たしかに。ええ、たしか、たしか……」
 とうとう、つぶれてしまったのを素っ気なく見すてて、奥まった衝立《ついたて》のうしろへ入りこみ、紙と筆を借りて、なにかこまごまと書きつけ、封をして、それを胴巻の中へ落しこむと居酒屋を出ていった。
 それから小半刻。藤波のすがたが御徒士長屋のうしろのほうへ現れる。ソロソロと駕籠部
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