相変らずはぐらかすねえ。そりゃア、五位鷺《ごいさぎ》の抜け羽でしょう。あなたには、それが天狗の羽根に見えますか」
顎十郎は尾羽をうちかえして、とみこうみしていたが、やア、といって頭を掻き、
「こりゃあ、大しくじり。……いかにも、天狗の羽根にしてはすこし安手です。……しかし、それはそれとして、手前には、やはり、神隠しとしか解釈がつきませんな。……だいいち、これだけの乱暴を働いたとすれば、このへんの草がそうとう踏みにじられていなければならぬはずなのに、そういう形跡がない。足跡らしいものは多少みあたるが、草が倒れていないのはどうしたわけでしょう」
藤波は油断のない面《つら》つきで、切長なひと皮眼のすみからジロジロと顎十郎を眺めながら、
「仙波さん、まア、そうとぼけないでものこってすよ。いくらひどく踏みにじられても、ひと晩はげしい霜にあったら、草がシャッキリおっ立つぐらいのこたア、あなたがご存じないはずはない。つまらぬ洒落はそのくらいにして、そろそろ代替《だいがわ》りにしていただこうじゃないか。神隠しだというお見こみなら、なにもこんなところで、マゴマゴしているこたアない。御嶽山《おやま》へ
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