、捕物の御前試合《ごぜんじあい》などはまさに前代未聞《ぜんだいみもん》。さすがに、両奉行もあっけにとられて、茫然《ぼうぜん》たるばかり。
伊勢守は、依然たる寛容の面もちで言葉をつづけ、
「当日は、両人とも鷹匠頭副役の資格。装束は役柄どおり、弁慶格子半纒《べんけいごうしはんてん》、浅黄絞小紋《あさぎしぼりこもん》の木綿股引《もめんももひき》、頭巾《ずきん》、背割《せわり》羽織をもちいること。……両人は、辰の刻、お仮屋前にてお出むかいいたし、お鷹狩のあいだに代地《しま》ならびに代のかこいの検証をすませておく。午の下刻《げこく》、上様ご中食《ちゅうじき》の後、お仮屋青垣《かりやあおがき》までお出ましになるが、特別の思召しをもって、垣そとにて両人に床几《しょうぎ》をさしゆるされる。……介添《かいぞえ》はおのおの一名かぎり。先番《せんばん》は籤《くじ》にてきめ、各自、死体見分がおわらば、ただちに、御前にて吟味のしだいを披露いたす。……いかなる次第にて死亡いたしたものか。また、人手にかかったものならば、いかなる方法、いかなる理由によってかような無益なことをしたか、本末をわけ、明白なる理を推して、
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