空へ雪白をちらして、応挙《おうきょ》の千羽鶴《せんばづる》のように群れ立つのへ、
「ピピイッ」
鋭い口笛につれて、将軍の拳から羽音もするどく舞いあがった一羽の大鷹。空をななめに切ってその中へ飛びこむ。つづいて、鷹匠の手からも助《すけ》の鷹が二羽三羽。……白黒の一点と遙かになり、また池の汀《みぎわ》まで舞いおり、飛びかい、追いかけ、卍巴《まんじともえ》のように入りみだれる。
鷹匠は鷹笛を吹いてしきりに加勢する。そのうち、ひときわ大きな白鶴の首に喰いさがった大鷹。切羽で鶴の頭を打ちすえ打ちすえ、だんだん下へおりてくる。地上十五尺ほどのところで、いちど鶴を離してサッと大空へ舞いあがると、たちまち石のように鶴の上へ落ちかかり同体となって代《しろ》のうえへ落ちる。
「ピョピョ、ピョピョ」
と、呼びかえしの早笛。鷹はぐったりとなった鶴を離して鷹匠の拳にもどる。
「あっぱれ」
どっという歓声のうちに、鷹匠が鶴をかかえて将軍の御前の白木の台にすすみ、小刀で鶴の左腹をかききり、血は血桶《ちおけ》へとり、臓腑はぬきだして鷹にあたえ、塩を腹につめて手早くそのあとを縫いあげ白木の櫃《ひつ》におさめて封
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