たもの》を持った面々が四列つなぎになって並んでいるのを、かきわけるようにして前へ泳ぎだし、番衆に押しもどされてすごすご後列へもどって行くが、すぐまた出てきて逆上したように、お氷を、お氷をとあえぐ、四十二三の浪人ていの男。
眼鼻立ちの大がまえな一文字眉。底のすわった立派な顔貌だが、いわゆる長々の浪々。貧苦がガックリと頬を落しこみ、鬢の毛はほうけ立って、不精たらしく耳の上へおおいかぶさっている。
女手がないのか、ぶざまに継《つぎ》をあてたつぎだらけの古帷子《ふるかたびら》。経糸《たていと》の切れた古博多の帯を繩のようにしめ、鞘だけは丹後塗《たんごぬり》だが中身はたぶん竹光……腰の軽さも思いやられる。
顔色は土気色《つちけいろ》に沈んでいるのに、眼だけは火がついたようにギラギラと光り、瀬戸の古丼を突きだしながらうわずったような声で、
「あの……どうか、お氷……」
番衆も業を煮やし、つい、剣つき声になって、
「こいつ、また来た……わからねえにもほどがある、順にやると言ってるんだ……列につきなさい、列に」
浪人ていの男は、あふッと喘いで、
「申訳けもござらぬ……勝手を申すようですが、じ
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