ばらしきぶ》のかどから四番原をななめに突っきって三番原。大汗になって一ツ橋づめまで飛んでくると、橋のたもとへ駕籠をおろして寅と為と部屋頭の三人が待っている。
顎十郎は大息をつきながら、
「ど、どうだった……ここで何分ぐらい待った」
部屋頭は首を振って、
「とても、いけません。……ここへ駕籠をおろしたのはちょうど三字と四十ミニュート。……いまがちょうど三字五十五ミニュート。あなたは十五ミニュートも遅れています」
顎十郎は汗を拭いながら、
「口から臓腑《ぞうふ》が飛びだすほど駈けてきたんだが、十五ミニュートとは、だいぶちがう。……だが、念には念を入れ、もうひとかえりやって見よう」
駕龍を吊って加賀の屋敷までひきかえし、またはじめからやり直す。
なんとも顎の長い異様なのが、ひと刻もおかずにまたぞろ本郷の通りを大駈けに駈けて行くもんだから、町並では、みな店さきへ飛びだして、ワイワイいいながら見おくっている。
今度は十分早めに追いかけたが、それでも、やはりいけない。顎十郎が駈けつける五分前に、駕籠は、ちゃんと橋詰へとどいている。
後口
小伝馬町《こてんまちょう》の牢屋敷。
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