三千五百坪の地内に揚座敷《あがりざしき》、揚屋《あがりや》、大牢《おおろう》、二間半《にけんはん》(無宿牢)、百姓牢、女牢、と棟《むね》をわける。
 お目見《めみえ》以上、五百石以下の未決囚は揚座敷へ。お目見以下、御家人、僧侶、山伏《やまぶし》、医者、浪人者は、ひと格さがった揚屋へ入れられる。
 揚座敷のほうは、いわゆる独房で、縁付《へりつき》畳を敷き、日光膳《にっこうぜん》、椀、給仕盆などが備えつけてあり、ほかに、湯殿《ゆどの》と雪隠《せっちん》がついている。
 揚屋のほうは、大牢や無宿牢のような雑居房ではなく、これも独房だが格式はぐっとさがって畳は坊主畳になり、揚座敷のように食事に給仕人がつかないから、したがって給仕盆などの備えつけはなく、雪隠も湯殿も入混《いれご》みになる。
 四畳に足りない六・七という妙な寸法で、いっぽうは高窓。いっぽうは牢格子。片側廊下で、中格子のわきに鍵役、改役当番の控所がある。
 その一間。
 この二日のうちに、いよいよもって憔悴《しょうすい》した源右衛門とむかいあって坐っているのが、仙波阿古十郎。
 かくべつ陽気にかまえるつもりはないのだろうが、顔の
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