ましたと手の裏をかえすような申立てをしているそうで。……ご承知か知りませんが、源右衛門というひとは肥前|彼杵《ぞのき》で二万八千石、大村丹後守《おおむらたんごのかみ》の御指南番《ごしなんばん》で板倉流《いたくらりゅう》の居合の名人。……たとえ海老《えび》責めされればとて、そんなことぐらいで追いおとされるような人柄じゃない。……このへんに、なにかアヤがあるのだと思いますが……」
顎十郎は、腕を組んでうつむいていたが、急に顔をあげて、
「たしかにあかしを立てるとはお引きうけできませんが、おなじ長屋の住人が、そういう羽目になっているというのを、だまって見すごしてもいられない。……ようございます、なんとか、ひとつ、やって見ましょう」
韋駄天《いだてん》
手拭いを肩にかけ、寅吉とつれだって有馬の湯を出る。無駄ッ話をしながら本郷三丁目を左へ曲って加賀さまの赤門。
役割部屋へ入って行くと、みな懐《なつか》しがって、寝ころんでいたやつまで、はね起きて来て、右左から、先生、先生、と取りつく。
顎十郎はあがり框に近いところへあぐらをかいて陸尺がくんでだす茶をのんびりと啜りながら、ぐるりと
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