橋御門うちから飛びだした氷盗びととそっくりそのまま……」
 顎十郎も、思わず歎息して、
「……うむ、着つけがおんなじで、お雪をつかってしまったんじゃ、あの藤波でなくとも、手前の知らぬことではすまさせない。……ちょっと、抜きさしなりませんな」
 隠居はうなずいて、
「しかし、それにしても、源右衛門さんが嘘をいっているとは思われない。こんなあたしなどが力んで見たところが、なんのたそくにもなりますまいが、せめて頼まれがいに、夜っぴて伜の看護をし、いまさっき裏の糊売ばばにかわってもらい、ひと風呂あびて、これから家へ帰ってふた刻ばかり眠るつもり……」
 と言って、あらためて膝を進め、
「……うかがうところじゃ、あなたは北番所でお役につき、また、さまざま捕物で功名をなすった方なのだそうで、これも、なにかの縁《えん》。もし、源右衛門さんがしんじつ無実なのなら、なんとかしてお助けくださるわけにはまいりますまいか。……さきほど家主がきての話には、きのうまではどう責められても自分のしわざではないと言いはっていたのに、どうしたものか、急にきょうになって、いかにも自分のしたことに相違ない、たしかに、手前が盗み
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