《ひむろ》の御祝儀ともいって、三月三日の桃の節句、五月五日の菖蒲《しょうぶ》の節句、九月九日の菊の節句についで古い行事で、仁徳天皇の御代に山《やま》ノ辺《べの》福住《ふくずみ》の氷室の氷を朝廷に奉《たてまつ》って以来、六月朔日を氷室の節といい、西の丸では、富士氷室の御祝という儀式があり、大奥、御台所は伺候の大小名に祝いの氷餅《こおりもち》をくださる。
町家《まちや》では、前の年の寒のうちに寒水でつくった餅を喰べてこの日を祝い、江戸富士詣りといって、駒込《こまごめ》の真光寺《しんこうじ》の地内に勧請《かんじょう》した富士権現に詣り、麦藁《むぎわら》でつくった唐団扇《とううちわ》や氷餅、氷豆腐などを土産《みやげ》にして帰る。
六月朔日の氷室のお祝に、加州侯からお雪をさしあげることは、加賀さまの氷献上といって、これも古い行事のひとつ。
延喜式《えんぎしき》の古式にのっとって、前の年の寒のうちに屋敷の空地の清浄な地に、深さ二丈ばかりの大穴を掘り、そこに新筵《あらむしろ》を敷いて雪をつめた桐の大箱をおさめる。
そのまわりを数万坪の雪でかこい、雪の上に筵を厚くかけて高く土盛りをする。こうし
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