るほど……ひッ」
「……ご承知の通り、勘定所へは毎朝、五ツに奉行がひとり出所しておおよその庶務をとり、九ツにお城へあがるのが毎日のきまりなんですが、その日も例の通り、朝早くお当番がひとり出て、きのう金座から届いた二十万両のうち小口の千両箱を二つ三つ持ちださせて、お役儀《やくぎ》までに改めて見ると、小判どころか錆釘《さびくぎ》や石ころがギッシリとつまっている。……これは、と驚いて、急に下役を呼びあつめ、きのう届いた二十万両、片ッぱしから蓋をあけて調べて行くと、万両箱のほうには変りはないが四十の千両箱のうち三十二だけが、これがみんな古釘……」
「うむ……うむ」
「つまるところ、石船に衝きあてられたほんのちょっとしたドサクサのあいだに、掏りかえられたのにちがいない。……それはそれとしても、なにしろもう朝がけ、川には荷足も数多く、ひと目もある中で、どんな方法でそんな素早いことをやりやがったものか。……金高も金高ですが、やりかたがあまりにも不敵。お上の御威勢にもかかわることですから、浅草の橋場《はしば》と中川口《なかかわぐち》のお船改番所《ふなあらためばんしょ》の関所をしめ、下り船の船どめをして
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