顎十郎捕物帳
紙凧
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鞴祭《ふいごまつり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)金銀改役|後藤庄三郎《ごとうしょうざぶろう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「ころもへん+施のつくり」、第3水準1−91−72]
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   新酒

「……先生、お茶が入りました」
「う、う、う」
「だいぶと、おひまのようですね。……鞴祭《ふいごまつり》の蜜柑がございます、ひとつ召しあがれ」
「かたじけない。……季節はずれに、ひどくポカつくんで、うっとりしていた」
 大きなあくびをひとつすると、盆のほうへ手をのばして蜜柑をとりあげる。
 十一月の入りかけに、四五日ぐっと冷えたが、また、ねじが戻って、この三四日は、春のような暖かさ。
 黒塗の出格子窓から射しこむ陽の光が、毳《けば》立った坊主畳《ぼうずだたみ》の上へいっぱいにさす。
 赤坂、喰違《くいちがい》の松平佐渡守《まつだいらさどのかみ》の中間部屋。

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