からね。……それで、あなたは、芳太郎が、行灯凧もあげたということまで突きとめましたか」
藤波は苦りきって、
「いや、そこまでは、まだ調べがとどいておらん。……行灯凧のためにここに小火があったということは、まだ届けいでがなかったでな」
「そのへんが、お役所の不自由なところ。……手前のほうは、松平の中間部屋に寝ころがっていて、チラとこの話を小耳にはさんだ。……いわば、怪我の功名だったんですが、こういうところから推しますと、芳太郎はどうも罪にはならんようですな、……言うまでもなく、行灯凧は、『陣中|狼火《のろし》の法』のひとつで、凧糸の釣《つり》にむずかしい呼吸のあるもの、また、これをあげるにも相当の技《わざ》があって、八歳や十歳の子供などにあつかえるようなしろものじゃない。……なにしろ、行灯仕立てにして、その中に火のついた蝋燭が一本立っている……火を消さぬように、行灯を焼かぬように、これを高くあげるにはなかなかコツがいる。あげるまでのあいだに、十中の九までは行灯を燃やしてしまうのが普通です」
藤波は、腕を組んで、眼を伏せて考え沈んでいたが、フイと顔をあげると、
「いちおう理屈は通るよう
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