おつかいものに届いたものに相違ない。……それを、お前がチョロリとちょろまかして来た。……どうだ、お見とおしだろう」
三平は恐れ入って、
「まったくのその通りなんで……。さっきお雑蔵《ぞうぐら》の前をとおると、入口の戸があいていてトバ口に蜜柑の籠がつんだしてある。……いい色ですから、先生にお目にかけようと思って……」
「つかみ出して、早いとこ、臍《へそ》のあたりへ五つ六つ落しこんだ……」
「えッ、臍……どうして、そんなことまで」
「蜜柑の肌に褌《ふんどし》のあとがついている」
「じょ、冗談……」
顎十郎は、ゆっくり蜜柑をむきながら、
「だいぶ、ひっそりしているな、みな、出はらったか」
「さきほどお城からお下りになりますと、すぐお伴をそろえて神田橋の勘定屋敷《かんじょうやしき》へお出かけになりましたんで……」
「この月は、佐渡守はお勝手方の月番じゃなかったはずだが」
「へえ、そうなんで。……あッしどもは、くわしいことは知りませんが、なにか、金座《きんざ》にどえらい間違いがあったんだそうで……」
「ほほう」
「駕籠があがるとき、チラとお見かけしたところじゃ、なにか、だいぶとむつかしい顔を
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