んなところに、いつまで突っ立っていたって、はじまらねえ」
吹屋の門を出て、職人下役の住居《すまい》になっている長屋の一廓へやってくると、そこの空地で下役の子供たちが十人ばかり、揃ってまっくろな烏凧《からすだこ》をあげて遊んでいる。
どれもこれも、いじけたような身なりの悪い子供。
顎十郎は足をとめて、子供たちの凧をぼんやりと見あげていたが、そのうちになにを考えたのか、手近のひとりのほうへ寄って行き、
「坊や、変った凧をあげてるな」
「なにが変っているもんか。凧屋へ行きゃ、ひとつ二文で売っている並《なみ》凧だ」
「見れば、みんな烏凧ばかり。……よく気がそろうな」
頭の鉢のひらいた十歳ばかりのひねこびた子供で、舌で唇をペロリとやると、うわ眼で顎十郎の顔を見あげながら、
「……金座の烏組といや、江戸の名物のひとつなんだが、お前、知らなかったのか。……国はどこだい」
「いや、これは謝《あやま》った。……そりゃそうと、なぜ外へでて揚げないのだ」
ふん、と鼻で笑って、
「おう、ありがてえな、おいらを出してくれるかい。……おいらッち、なにもこんな狭えところで揚げたかあねえんだ……さあ、出して
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