して封印をいたし、金蔵方の受帳へあげて蔵へ収納いたします」
「なにか、定期に収納金の内容あらためのようなことをなさいますか。……たとえば、棚おろしといったぐあいにですな」
「ございます。……七、八両月は吹屋の休みで、このあいだに封印ずれの改めをいたします」
「年に一度?」
「はい、年に一度。……なにかほかに……」
「いや、このくらいで……」
 勘定場を出ると、そこから吹所のある一廓のほうへやって行く。
 ここにもまた、厳重な中門。
 吹所のひろい地内に十棟の吹屋があって、屋根の煙ぬきから、さかんな煙をあげている。
 十人の吹所棟梁が吹屋をひとつずつあずかり、薄ぐらい大|鞴《ふいご》仕立ての炉のそばで棟梁手伝いのさしずで、大勢の職人が褌ひとつになって、金をのばしたり打ちぬいたり、いそがしそうに働いている。
 顎十郎は、吹屋のトバ口に立って、うっそりと眺めていたが、ひょろ松のほうへ振りかえって、
「ああして捏《こね》たり延《のば》したりしているところを見ると、まるで餅屋だな。……おい、見ろ、むこうの鞴のそばでは、金を水引《みずひき》のように細長く引きのばして遊んでいる。……さあ、帰ろう。こ
前へ 次へ
全48ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング