ご》の鳥同然に押しこめられ、他人のために朝から晩までせっせと小判をつくっている。ひとの恨みと金の恨みがあいよって、それで、こんな悪気《あっき》が立ちのぼるのだろうて……」
ひょろ松は、へこたれて、
「どうも、あなたが喋りだすと、裾から火がついたようになるんで、手がつけられねえ。……さあさあ、もう、そのくらいにしておいてください」
「……よしよし、では入ってやるが、だが、ひょろ松、くどいようだが、叔父の禿げあたまには極内《ごくない》だぞ」
「それは、嚥みこんでいますが、どうして、そうまで金助町に内証にしたがるんです。……中間部屋なんぞにゴロついていないで、旦那のところへお帰りになって藤波と正面きって張りあってくだすったら、旦那もどんなにかお喜びだと思うんですがねえ」
「いやいや、それはお前の考えちがい。……叔父はな、おれを風来坊《ふうらいぼう》の大痴《おおたわけ》だと思っている。……興ざめさせるのもおかげがねえでな。……これも、叔父孝行のうちだ」
門番詰所へ行って、役所の割符《わっぷ》をだすと、門番頭のうらなり面が、ジロリと顎十郎を見て、
「おつれは」
「同心並新役、仙波阿古十郎」
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