屋で寝っころがっているうちに、なんとなく手前の耳にはいった」
と言って、言葉をきり、
「手前は堺屋へ行ったわけではない。なにもわざわざ出かけて行かなくともちょっと理詰めにしてみると、このくらいのアヤはわけなくとける。……これはピンからキリまで手前の推察だが、大きなことを言うようだが、けっして、これにははずれはない。……思うに、堺屋では、石見銀山を買った。ご承知の通り、この鼠とりは蛤っ貝の中に入っている。それを飯たきがへっついの近くの棚にのせておいたに違いない。そして、その棚の近くには鼠の通う穴があるはずだ。嘘だと思うなら行って調べてごらんなさい。かならずある。……ここまで陳ずれば、あとはくどくど説くがものもねえのだが、どうして、こんな間違いが起きたかと言えば、ねずみが棚を走りまわって、殺鼠剤の入った蛤っ貝を下に蹴り落した。運悪くへっついの近所に、晩飯の蛤汁にする蛤が水盥《みずだらい》にでも入れておいてあった。……飯たきが夕飯の仕度にかかって、ふと見ると蛤がひとつ水盥からはね出している。……おや、ここにもひとつ、というわけで、手ッ暗がりの台所で、そいつを何気なく鍋の中に拾いこんだという
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