それをとりちがえたって、たいしてあなたの顔にかかわるというわけでもない」
と、わからないことを言っておいて、急に切って放したようなようすになり、
「叔父上、……それから、ひょろ松。……あなた方は、ついこの頃よく江戸の市中に売りに来るようになった『石見銀山鼠《いわみぎんざんねずみ》とり』……石見国邇摩郡《いわみのくににまのこおり》の石見銀山の※[#「譽」の「言」に代えて「石」、第3水準1−89−15]石《よせき》からつくった殺鼠剤《ねずみとり》、これがひとの口にはいると、虎列剌と寸分《すんぶん》たがわぬ死に方をするということをご存じか」
きょろりと、二人の顔を眺めて、
「赤斑も出れば、痴呆面《こけづら》にもなる。手足の硬直《こわばり》、譫言《うわごと》、……米磨汁《とぎじる》のようなものを痢《くだ》し、胆汁を吐く。息はまだ通っているのに、脈はまるっきり触れない。……なにもかにも同じなんだ。……つい十日ほど前、砂村《すなむら》で、子供が餅についた鼠とりを知らずに喰った。これを診《み》たのが、導引並《どういんなみ》の若い医者だが、あまり虎列剌と症状が同じなのに驚いた、という噂話が、中間部
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