血につながる叔父《おじ》甥《おい》の間柄として、そんな無惨《むざん》な光景《ありさま》を横目で眺めてすましているわけにもゆくまいから、ひとつ、ふんぱつして、この度《たび》にかぎり、手前があなたのいのちを助けてあげます。……皺腹代は、まず二十両というところかな」
 庄兵衛は、日ごろの強情にも似ず急に脅えたような顔つきになったが、それでも、口先だけは威勢よく、
「なにを、小癪な。では、俺の吟味にあやまりがあるというのか。ほかに罪人があるとでもぬかすのか」
「まアまア、そうご心配なさるな。手前が扱ったという以上、あなたの顔をつぶすような真似はしやしません。……ねえ、叔父上、手前は、なにもあなたの吟味が間違いだなどと言ってるわけじゃない。お調べどおり、罪人は、いかにも忠助です」
 叔父は眼を三角にして、
「そ、そんならば、なぜにいらざる異をたてる。ふざけるのもいい加減にしておけ」
 顎十郎は、またしても、気障《きざわ》りな薄笑いをして、
「……いかにも、忠助は忠助だが、その忠助は尻尾の長いチュウ助です。ここのところが、ちッとばかりちがう。……しかしながら、いずれにしろ罪人はチュウ助なんだから、
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