「それで、忠助は、どんな毒を盛ったというのだの」
ひょろ松は少々当惑のていで、
「ただ、殺したのは私だというばかりで、そのほうはどうしてももうしません」
「では、段取りのほうはどうだ。そのころ忠助が台所でうろうろしていたというような事実でもあったのか」
「いえ、そういうこともございません。女中や飯たきのほか、店のものなどは、ひとりも台所へ来なかったというんでございます」
顎十郎は、ニヤリと笑って、
「叔父上、いつまでもこんな掛合いをしていてもキリがねえし、ほかの事件ならいざ知らず、出鱈目《でたらめ》を言ってすっ恍けているには、すこし間違いが大きすぎるから、よけいなおせっかいのようですが、手前が、ここでこの事件のアヤを解《と》いてお目にかけます。……叔父上、あなたはご存じなかろうが、南の藤波が躍気となって反証を探しているんですぜ。……いよいよ磔刑獄門《はりつけごくもん》ときまったところ、南から再吟味を願い出られ、そのすえ、これが真赤《まっか》な無実だったなどとなったら、あなたは腹切だ。その皺腹《しわばら》から大腸《ひゃくひろ》をくり出すところなんざ、とんと見られたざまじゃあるまい。
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