、だまっていても、堺屋の身代は当然忠助のものになる。……どうです、これでおわかりになりましたろう」
顎十郎は顎をひねりひねり、うっそりと聞き入っていたが、急に無遠慮な声で笑い出し、
「叔父上、それから、ひょろ松も……、二人の口真似をするわけじゃねえが、なるほど、こりゃあ、すこしけぶですぜ」
庄兵衛は、たちまちいきり立って、
「なにが、どう、けぶなのだ」
「だって、そうじゃありませんか。それほどの悪企みをやってのける人間が、だれに言わせたって、かならず自分に疑いがかかるような、そんなとんまな真似をするはずがねえ。弟のひとりぐらいはちゃんと道連れにつけてやっているはずです。……それじゃ、まるで、手前がやりましたとふれて歩いているようなもんだ。こりゃあ、すこし、ひどすぎる」
「だから、それ、うまく虎列剌と胡麻化せると思って、大きに多寡をくくってやった仕事なのだわ」
ひょろ松は、それにつづいて、
「阿古十郎さん、あなたのおっしゃることは一応ごもっともですが、まだほかにいけないことがあるんです。……いったい、三人はその晩、蛤汁が出ると、忠助は妹娘のおさよと弟の市造に、このごろ虎列剌が流行《
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