のおきぬと妹娘のおさよ、それに一番番頭の鶴吉、手代の忠助と忠助の弟の市造と、この六人が奥で飯を喰うしきたりになっているんでございます」
「なるほど」
「ちょうど二十九日の夜、晩飯がすんで半刻ばかりすると、いま言った三人だけが苦しみ出し、あっという間にこれがもういけない。……なんの不思議もないようだが、ねえ、阿古十郎さん、よッく考えてごらんなさい。一緒に膳についた妹娘のおさよと忠助と忠助の弟の市造だけは、けろりとして、しゃっくりひとつしねえんです」
「それが、どうだというんだ」
「なるほど、これだけじゃ、納得がゆかねえでしょうから、かんじんのところを掻いつまんで申しますと、死んだのは、三人とも忠助にとっては邪魔なやつばかりで、生きのこったのは忠助としては、どうあっても、生かしておいたはずの三人なんです。これじゃア話がすこしうますぎやしませんか」
 と言って、チラリと庄兵衛のほうを見て、
「尤も、あッしの智慧じゃない。これはけぶ[#「けぶ」に傍点]だと最初に言い出したのは、実は旦那なんです。そう言われて見ると、なるほど……」
 庄兵衛は、大きな赭鼻《あかはな》をうごめかしながら引取って、

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