んですから、どうにも手がつけられない」
顎十郎は、キョロリとひょろ松の顔を見て、
「お前は、いま、この事件は落着したと言ったな」
「へえ、そう申しました」
「大ちがいの三助だ。落着したどころか、始まったばかりのところだ」
ニヤリと笑って、
「それで、藤波は、この事件から手を引いたのか」
「……ですから、あなた、引くにもなにも……」
「そいつはいいぐあいだ。……こりゃ、一杯飲めるな」
「え?」
「これで、叔父貴からまた小遣にありつける」
「おや!」
「今日は、桃の節句。……花世の白酒を飲みがてら、ひとつ、叔父貴を煽《あお》りに行こう。……馬の尻尾で、白馬《しろうま》にありつくか」
ひょろ松は、勇んで、
「阿古十郎さん。ほんとうに、ものになりますか」
「なるなる。……なるどころのだんじゃない、ひょっとすると、近来の大物だ」
「ありがた山の時鳥《ほととぎす》……。じゃ、お伴します」
呉絽《ごろ》
顎十郎が、ひょろ松と二人で従妹の花世の部屋へ入って行くと、花世は綺麗に飾りつけた雛壇の前で、呉服屋の番頭が持って来た呉絽服連《ごろふくれん》の帯地を選んでいたが、二人を見ると、美し
前へ
次へ
全30ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング