ていないことでもよくわかる。……土どころじゃねえ、よく調べて見ると、魚の鱗がついている。……こりゃ、大川のほうから舟に積んで鎌倉河岸まで持って来たんだということがわかる。……隅田川で、都鳥で、……そこで、千鳥ガ淵よ」
「でも、千鳥ガ淵で、女たちが呉絽を織らされているだろうというのは?」
「お前、比丘尼の手を見たか」
「手がどうかなっていましたか」
「手に筬胼胝《おさだこ》ができている。……比丘尼の手なら撞木擦《しゅもくず》れか数珠《じゅず》擦れ、筬胼胝というのはおかしかろう。……どうだ、わかったか」
「わかりました。……つまり、誘拐《かどわか》された上、自分の髪で呉絽を織らされる……」
「まず、そのへんのところだ。……娘の服装《なり》で青坊主では足がつくから、尼に見せかけようというので、あんな木蘭色の衣を着せて投げ込んだ。……よほど狼狽てたと見えて衣が左前……」
「いや、これは驚きました」
「大川端の千鳥ガ淵へ行って、あの辺を捜せば、きっと、女どもが呉絽を織らされている家が見つかる。……言うまでもなく、こりゃ長崎屋の仕業なんだが……」
ひょろ松は、腰を浮かして、
「そんなら、千鳥ガ淵
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